Main Image 〈〉の学校 自分ごとの、家しごと。 北欧アイスランドにある男女共学の「主婦の学校」が教えるのは「いまを生きる」ための知恵と技術 アワードロゴ
監督:ステファニア・トルス
2020年 / アイスランド / アイスランド語 / ドキュメンタリー / 78分
原題:Húsmæðraskólinn / 英題:The School of Housewives
後援:アイスランド大使館 提供・配給:kinologue
© Mús & Kött 2020

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Collaboration コラボレーション

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第1回「配給の経緯と邦題・宣伝コンセプト決定」
第2回「ポスター決定への道のり+予告編完成」
第3回「『主婦の学校』の学びと家庭科教育:なぜ、いま家庭科教育か?」
第4回「『主婦の学校』 の母国、アイスランドに学ぶ。いかにしてジェンダー平等先進国となったのか?」
第5回「公開直前!配給と宣伝の総括と展望」

Introduction イントロダクション

1942年から現在まで続く、男女共学の家政学校「主婦の学校」

世界最北の首都、アイスランドのレイキャビクに、1942年に創立された伝統ある「主婦の学校」がある。寮での共同生活を送りながら生活全般の家事を実践的に学ぶことができる、一学期定員24名の小さな学校だ。かつて、義務教育後に進学の機会が少なかった女性たちを、良き主婦に育成することを目的としていた家政学校(花嫁学校)は、世界のあちこちにあった。その多くが衰退していくなか、この学校は、1990年代に男子学生も受け入れて男女共学となり、現在まで存続している稀有な存在である。今では「主婦になるために行くわけじゃない」「自分のことは自分で面倒を見られる人間になりたい」と、性別に関わりなく、「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってきている。本作は、時代の移り変わりと共にその役割を変化させてきた「主婦の学校」に注目したドキュメンタリーである。

自立した人生を楽しむための術、サステイナブルな学び

学生たちは、初歩的な料理からおもてなし料理・伝統料理の調理法、衣類の種類に応じた洗濯法や正しいアイロンがけ、素材の理解と縫製技術、美しいテーブルセッティング&マナー、火災予防のための消火器の使い方など、理論と実技を実践的に学んでいく。昔からほぼ変わっていないという教育内容には、家事の基本を押さえるだけでなく、破れた衣服の修理や食品を使い切ることなど、今の時代に必須な環境に優しいサステイナブル(持続可能)な学びも含まれている。学位をとるためではなく、生きることに役立つ知恵を身につけ、手に技術をつける学び、つまり〈自立した人生を楽しむための術〉が、この学校の教育にはあふれている。

“ジェンダー平等” 先進国アイスランドからの問いかけ〈主婦〉とはなにか。家事を「自分ごと」として〈生活を大切にする〉営みとは?

アイスランドは、2021年世界経済フォーラム公表のジェンダーギャップ指数ランキングにて12年連続1位の “ジェンダー平等” が進んでいる国だ(日本は同ランキング120位)。そのアイスランドに「主婦の学校」が存続していることは、性別に関わりなく、自立した人間として生きていくための学びの大切さの表れである。主婦とは家事を担う既婚女性を意味してきたが、本来、〈生活を大切にする〉営みを続ける人であることを、この学校の学びは気づかせる。〈主婦〉とはなにか?そして、家事を人ごとではなく「自分ごと」とする暮らしとは?長編デビューとなったアイスランドの新鋭女性監督ステファニア・トルスによる本作は、家で過ごす時間が多くなったコロナ禍以降、暮らしや家事のあり方を柔らかく問うている。

Story ストーリー

1942年に創立された首都レイキャビクの中心部にある男女共学の家政学校「主婦の学校」。白く美しい建物が優雅な雰囲気を醸し出すこの学校には、現在でもアイスランド全土から、様々な期待を胸にした学生が集まってくる。ここは学位のためではなく、学びたい人が自分のために行く学校だ。
「私は手仕事に興味があるわ」
「将来使える技能を学べるのを楽しみにしてる」
「服に開いた穴を直す方法も習えるかな」
彼らの多くは寮で共同生活を送りながら、一学期3ヶ月の間、あらゆる家事や手仕事を基本から学んでいく。

秋学期は草原でのベリー摘みから始まる。摘んだベリーはジャムやケーキに使われる。学校では、調理や裁縫、編み物、刺繍、洗濯、アイロンがけなど、一つ一つを実践的に教えている。毎日の食事も調理担当の学生がつくる。学生は多くの課題制作や試験もこなしていかなければならない。カリキュラムが半分を過ぎる頃には、学生の家族を招待して、制作した作品の展示や料理をふるまうパーティーが開かれる。

歴史ある学校の卒業生たちは振り返る。
「料理や家の切り盛り、倹約することも教わった」(1947年在学/主婦)
「ジャガイモもゆでられない問題児でした」(1967年在学/美容家)
「台所仕事が怖かったのに、人に出す料理を作れるようになった」(2005年在学/俳優)

学校は地域に開かれている。学校開放日にはオードブルやケーキのビュッフェ、焼き菓子を販売する。そこで余ったケーキはホームレスの施設に届けに行く。学生は食べ物を無駄にしないことを学び、地域にも育てて貰っているのだ。

学校初の男子学生だった卒業生は語る。
「卒業するとき、校長に『あなたは幸運な男性になるわ』と言われた。
人生でうまくいかないことがあるたびに、その言葉を思い出し乗り越えてきた」
(1997年在学/芸術家)
その後アイスランドの環境・天然資源大臣となった卒業生は語る。
「この学校の教育は昔からの内容だが時代遅れじゃない。今でも役に立つ。
入学して本当によかった」
(1997年在学)

性別に関係なく、「いまを生きる」ための知恵と技術を身につけた学生たちが、
今日も「主婦の学校」を巣立っていく。

Comments コメント

“この映画でお祭りの日の料理の美しさと
生徒の美しさは一致することがわかります。”
土井善晴さん(料理研究家)
“「この学校で学びたい!」
観終わって最初に思ったこと。夫のロマンに相談までしてしまいました。
《主婦》という字が付くとできて当たり前の仕事と思う人が多いと思うけど、何もないところから料理や衣服を作れたり、生活に必要なすべてをちゃんと学んだ事がある人の方が少ないのではないかと思います。”
タサン志麻さん(家政婦)
“長い間「無償ケア労働」として女性が多くを担ってきた「主婦の仕事」の今日的な意義を伝える静かで素敵な映画です。見終わるとアイスランドがジェンダーギャップ指数ランキングで1位である理由が分かるでしょう”
治部れんげさん(ジャーナリスト/東工大准教授)
“服を着て洗う、ご飯を作って食べる、身の回りを整える・・・
人生において本当に必要で価値あるものには「値段」がついていない。
人や暮らしが「豊かになる」というのはどういうことか?
僕もこの学校で学びなおしたい。”
中村祐一さん(洗濯家)
“わたしとパートナーと息子。うちではみんなが家事をする。
自分のため、お互いのために。
アイロンやお菓子作りに集中していると、制作のアイデアが次々湧いてくる。
いつか家族揃ってアイスランドに行き、あの学校でスキルを磨けたらどんなに素敵だろう!”
長島有里枝さん(写真家)
“学校と名のつくところに行くたび「こんなことを勉強してなんの役に立つんだ」と思ったものだ。だけどこの学校では、生きるうえで役に立つことしか学ばない! 本当に大切なことは過小評価されてる。美しい映画でした。”
山内マリコさん(作家)
※順不同

About the School 「主婦の学校」について

学校の成り立ち

1921年に首都レイキャビクの中心地に建てられた美しい建物にて、1942年2月7日、通年の学校として創立。当初一学期は9ヶ月間、寮は学校の近くに2カ所あり、初年度に入学した学生数は48名だった。1975年に「主婦の学校(Húsmæðraskólinn)」から「家政学校(Hússtjórnarskólinn)」へと改称し、州立学校となった。1997年に初めて男子学生を受け入れて、男女共学に。1998年に国庫からの拠出金で運営される私立の学校となった。同年、マルグレート・ドローセア・シグフスドッティル校長就任。レイキャビク女性協会のサポートを受けながら、現在も続いている。

学習科目

  • 編み物:かぎ針編みと棒針編み。毛糸や針の種類、基本的な編み方と複雑な編み方の習得
  • 裁縫:服飾縫製とミシン縫製、天然素材と合成素材の違い、衣服の修理法
  • 刺繍:刺繍の手順、刺繍糸や道具の使い方、図案作成
  • 織物:織りの基本的知識と方法、道具の使用法、テキスタイルのリサイクル
  • 調理:基本的な調理方法、器具の扱い方、キッチンの衛生管理、整理整頓、接客、テーブルセッティング、おもてなし料理・伝統料理・外国の料理の調理法、食品の生産・加工のプロセス、保存方法、食品パッケージの読み方
  • 栄養学:栄養学の知識、栄養を損なわない調理方法、食品の選択、栄養価の計算
  • 洗濯:あらゆる種類の衣類の洗濯方法、洗剤の使い方、環境に優しい洗濯術、アイロンがけの方法、衣類のラベルの読み方
  • 清掃:一般的な掃除方法の習得、家具や家電製品の手入れとメンテナンス、衛生計画

教育プロジェクト

  • クローベリー・ブルーベリー・ラズベリー摘みのワンデイトリップ
  • アイスランド南部への修学旅行
  • 中心部の歴史的・文化的スポットを訪問するタウントリップ
  • イーステックス(羊毛工場)訪問
  • 選択トレーニングコース(5レッスン):フェルトでマフラーや子供靴の制作等
  • 火災対策:消火器の使い方
  • テーブルマナーと一般的礼儀作法
  • 身だしなみの整え方
  • セックスと避妊
  • 薬物乱用防止
  • 平等や信教の自由、いじめとその解決
  • お金とクレジットカード

Director 監督インタビュー

Q.1
この話を映画にしようと思ったきっかけは何ですか?
以前、学校が建っている通りに住んでいました。ある時、きれいな家があることに気づいて、友達に聞いてみたんです。するとそれは「主婦の学校」だと教えてくれました。どんな学校で、何をしているのか、すぐに興味が湧きました。正直、最初は学校に対して否定的だったんです。女性が料理や掃除を学ぶ必要があるなんて時代錯誤だと。しかし、調べていくうちに気持ちが変わり、この学校のドキュメンタリーを作りたいと思うようになりました。そして10年後、ようやく時間と資金ができたので制作に至りました。
Q.2
映画を作る過程ではどんな気持ちの変化がありましたか?この学校をどんな学校だと思いましたか?
私はこの学校にとても惚れ込みました。そこにいるだけで、まるで瞑想のように時間が止まったような感じがしました。学校はレイキャビクの中心部で、交通量が多く、騒がしいところにあります。しかし、一歩足を踏み入れると、異次元の世界に入り込んだような感覚になります。1学期の間に、学生たちがすることはたくさんあり、しばらくすると、私も入学したくなりました(笑)。学生たちは、ここでの生活をとても楽しんでいて仲良くなり、後々までその友情を育んでいます。私にはそれがとても美しいものに思えました。母や祖母がこの学校の卒業生だからという理由で、自分も通ってみたいという人も多いようです。この学校は、以前は「主婦の学校」と呼ばれていたのですが、1970年代に「家政学校」に名称が変更されました。私は、この映画のタイトルに、敢えて昔の名前を復活させたんです。
Q.3
この学校で教えていることは、ある種レトロなライフスタイルを再現しているようですが、逆にそれが今の時代にマッチしたものになっているのでは?
そうなんです。編集を始めるまで、この学校のエコ的な側面を意識していませんでしたし、最初からそれを目指していたわけではありません。開校以来、この学校で教えていることは、多少の変更はあるものの、ほとんど変わっていません。彼らは基本に立ち返り、自給自足の方法を学んでいるのです。例えば、出来るだけ生ゴミを出さないようにすることや、新しい服を買いに行く代わりに破れた服を直せるようになることなどです。この学校はまさに今、私たちが知るべきことを教えてくれていると思いました。
Q.4
コロナ禍におけるロックダウンは女性を強制的に家庭に戻しました。女性が当然のように家事をしていた時代とは何が違うと思いますか?
私が幼い頃、祖母は「女性は外に出て働くことを決めた時点で、すべての力を失った」と言っていました。なぜなら、家の中では女性はすべての権力を持っていたからです。その言葉には真実味があると思います。しかし、当時は選択の余地がなく、家にいることを求められていた人もいました。コロナ禍でのロックダウンの間、私たちは皆、家庭に戻って子供たちの世話をしていました。2ヶ月の間、ほぼ家にいましたが、こんなに生ゴミが出なかったのは初めてかもしれません(笑)。時間に余裕があり、計画的に家事を進めることができたからだと思います。以前は、ただ外に出て、忙しく働いていましたから。
Q.5
卒業後に活躍している男性もいます。彼らの話を聞くのは簡単でしたか?
彼らはとても熱心にインタビューに応じてくれました。そもそも、この学校に男性が多いことにも驚きました。この学校の学びが、女性も男性も関係なく誰にとっても役立つということなのでしょうね。彼らはセーターや靴下を編んだり、撮影時も正しくアイロンをかけることが出来ていましたが、私自身は全くダメです。自分に腹が立ちました(笑)。
Q.6
あなた自身は主婦ですか?〈主婦〉をどう定義しますか?
主婦は、例えば私の祖母のように、家にいて家族の世話をし、食事を作り、家を清潔に保つ人のことを示していたと思います。その意味では、私は主婦ではないですね。もちろん料理も掃除もしますが、外で働いているのでずっと家にはいられません。コロナ禍の経験から、4日は働いて、3日は主婦というのが理想だと気づきました。私が知っているほとんどの夫婦は、どちらも家事をしています。私の家では、いつも私が洗濯をして、夫が料理を作ります。私が仕事で忙しいときは、夫が家を掃除します。家庭を大切にするために、共に家事を行っています。家事は女性だけの仕事ではありません。女性が仕事をしていて、主婦をしている男性もいます。つまり、私たちは皆、主婦だと言えるでしょう。〈主婦〉という言葉はネガティブな意味を持ってしまっているように思いますが、本来はその逆で、ポジティブなものであるべきです。

ステファニア・トルス Stefanía Thors

アイスランド・レイキャビク出身の映像作家。プラハで演劇を学び、舞台芸術アカデミーで修士号を取得。在学中に編集助手を務め、2007年に初の長編映画 “The Quiet Storm “の編集を担当。その後、アイスランドに戻り、映画編集者として活躍している。本作がドキュメンタリー監督デビュー作。

Cast & Staff キャスト / スタッフ

Cast

マルグレート・ドローセア・シグフスドッティル Margrét Dóróthea Sigfúsdóttir(校長)
ラグナル・キャルタンソン Ragnar Kjartansson(卒業生・1997年在学)
ラグナ・フォスベルグ Ragna Fossberg(卒業生・1967年在学)
グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン Guðmundur Ingi Guðbrandsson(卒業生・1997年在学)
アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル Áslaug Kristjánsdóttir(卒業生・1947年在学)
ヒルマル・グズヨンソン Hilmar Guðjónsson (卒業生・2005年在学)

カトリン・ヨハネスドッティル Katrín Jóhannesdóttir(教師・刺繍/洋裁担当)
グズルン・シグルゲイルスドッティル Guðrún Sigurgeirsdóttir(教師・調理担当)
エッダ・グズムンドスドッティル Edda Guðmundsdóttir(教師・織物/編物担当)
インギビョルグ・オラフスドッティル Ingibjörg Ólafsdóttir(寮母)
2016・2017・2018年の在校生

Staff

監督・脚本・編集:ステファニア・トルス Stefanía Thors
製作・音楽・音響:ヘルギ・スババル・ヘルガソン Helgi Svavar Helgason
音楽:フリス FLÍS / ダビズ・ソル・ヨンソン Davíð Þór Jónsson(グランドピアノ) / ヘルギ・スババル・ヘルガソン Helgi Svavar Helgason(ドラム) / ヴァルディマル・コルベイン・シグルヨンソン Valdimar Kolbeinn Sigurjónsson(ダブルバス) / シィグズル・グズムンソン Sigurður Guðmundsson(ボーカル)
録音:フィオズリティ・グズムンドゥル・クリスティン・ヨンソン Hljóðriti Guðmundur Kristinn Jónsson 
サウンドデザイン:スタジオ・フリズランド・フリズオン・ヨンソン Studio Friðland Friðjón Jónsson
イラスト&グラフィックデザイン:エルサ・ニルセン Elsa Nilsen
アニメーション:ラグナル・フィヤーラル・ラゥルソン Ragnar Fjalar Lárusson

Special配信番組

シアターイメージフォーラム配信番組「Sign of Life:"配給さんと映画を届ける"」【事前学習講座】

第1回「配給の経緯と邦題・宣伝コンセプト決定」
第2回「ポスター決定への道のり+予告編完成」
第3回「『主婦の学校』の学びと家庭科教育:なぜ、いま家庭科教育か?」
第4回「『主婦の学校』 の母国、アイスランドに学ぶ。いかにしてジェンダー平等先進国となったのか?」
第5回「公開直前!配給と宣伝の総括と展望」